2023年12月

今日で入院して3週目に入る。体は変わらない。今、すでに眠気レベルが高い。
『マチネの終わりに』を読み終わった。人と人との関わりは、作り物の上でもどうなるか分からない。「過去は未来によって変わる、繊細なもの」という蒔野の価値観が、底に流れ続けているように感じた。病気もスランプも、大成功も達成したことも、後の意味づけによっていくらでもよくなったり悪くなったりする。だから、アドラーは「今を生きろ」と言った。でも、今を生きるパワーはどこからもらうのか。自分から湧き出てくるのか、どうするといいんだろう。

便が硬くなった。マグミット錠を2錠にするといいのかな。いぼ痔みたいなのがケツ穴から飛び出していて、そのせいか腹が痛い時間が長かった。

『腹を割ったら血が出るだけさ』が、面白いところになってきた。自分の「愛されたい」の機嫌をうかがって行動を決めている、すごい主人公だ。そしてそれのために犠牲をいとわないのも、とても共感できる。共感していいのか分からないけど。入院のおかげでためらいなく本を読める。もし家だったら、子どもと料理とゲームとスマホで絶対にやってなかった。

普通は就活の時に向き合うべき、自分の職業適性に、今が向き合うべき時なのかな。でも、つべこべ言わず、すべきだとも思っている。


頼もしい、一歩。

『マチネの終わりに』、これがどんな終わり方をするのかが気になり、ナンプレができなかった。何かをやりとげ、相手を思いやる、だからこそのすれ違いがなんとも言えず、アツい。ただ、2人のスランプの感じが今の自分と重なって、興味深かった。蒔野は、ギターに飽きてしまった、高みがあるはずだが、道を逸れているような感じ、洋子は、ハメを外したくなる、安定を捨ててしまいたくなる時期、そんな言葉で画かれた。

アドラーは、病気を「何か目的があって生まれるもの」と言い切った。結婚か、子どもか、仕事か、カネか、友達か、家か、、、ステータスを見れば、よくここまでうまくいった、と感じざるを得ない。もちろん削ったものもあり、それは今のところ友達と家だ。その次に削るのは、おれは仕事だと思う。これが一番とりかえしがつき、尚且つ手放すか悩んできたものだ。

人生は面白い。順調に欲しいものが手に入ったあと、それに飽きてしまうのだから。一年前は、失敗してやろう、という気持ちで復職した。でも多分、そこじゃない、人の気持ちを自分の中で支えきれなくなるんじゃないか。そういう意味では、何十人もの人の想いを背負う前の仕事はよくないんだろうな。と、これも逃げの口実ではある。そもそも、なんでこの仕事を選んだのだろう。原体験も何もない、なのに想いだけは強くて、それを持てあましているようだ。元の仕事に戻る理由を見つけられなかった時に、本当に足を洗えばいい。


頼もしい、一歩。

今日は29日だったか。はっきり覚えているのはスマホでメールが届いていたのを見たことと、『真昼の月を追いかけて』を読み切ったことだった。

ここには書いていない、Yさんが一時帰宅するらしく、コメに、スーパーに行くのに、灯油に、生活の心配が多いようだ。病気の心配は?スーパーは遠いが、近所の人が1000円で乗せていってくれて、1万5000円くらいまとめ買いするらしい。病気は?

朝、起きているようにしたら昼寝ができなかった。できなかったというより、寝ようとしても起きていられた。なんだか進歩な気がするが、元に戻ってもいい。仕事を辞めることを考えるため、傷病手当と失業手当のことを調べた。病気を治すのと、職を探すのでシステムを分けるとは、なんとも日本の細やかさが出ている。細かいことよりも、数字が目に入った。家族で実家に行けば、うつは出なくなるだろうか。この、やってみなくちゃ分からない、でずーっと病気を引きずってきた気がした。もう十分チャレンジしたってことない?職探しの大変さなんて知らないが、このまま続けることもチャレンジであることを考えてほしい。

ミワさんが何かのテレビを見て大笑いしている。妻もこのタイプだった。いわゆる肉子ちゃんタイプだ。代わりに喜んでくれると、こちらもうれしくなる。それが一番の幸せだったのだけれど、今は会えないので、難しい。


頼もしい、一歩。

今日はシャワーをしたが、夕方にはそれを忘れて着替えてしまいそうだった。あと、向かいのハラダさんが夕食直後にポテチをクチャ食いして耳ざわりだ。

向かいのハラダさんは、天パでヒョロ長く、灰色のスウェットしか持っていない。一人言が多く、何かを書きつけるためのノートがある。へんなところ、たとえばろう下や、病室のすきまにしゃがんでノートと話している。コータくんとモサメガネくんとテーブルゲームをしているところを見ると、悪い人ではなさそうだ。でも全力でファンタとかコーラとか飲んでいる。

スマホで連絡をしようとしたが、ステーションに誰もいなかったので、めんどくさいし眠いのでやめた。こっちは病人である。こっちに期待するのも変な話だ。
右隣にいるのはハラグチさん。ツルハゲで私の父と同い年で、同室になった時にあいさつしてくれた。食堂では、フタを置くところを教えてくれた。10日以上隣だが、お菓子を食べる音が聞こえるだけで、やはり疲れているのかもしれない。あと、ガラケーを閉じる音も聞こえる。時間を見ているのか。

今日は恩田陸の、題名の長い本を読み始めた。あと、ナンプレのハガキを出すのは1枚だけに決めた。あとは、明日考えればいい。


頼もしい、一歩。

体感的に一番の不調を味わった。スマホで何を伝えるか考え、4ヶ月先まで想像の中で旅行をして午前が終わった。締め切りや約束を守るというようなレベルではないのだ。基本は寝る、なのだ。

午後の半分は寝て、半分は『くもを探す』を読んだ。少なくとも自分にとっては、今の仕事はそうとうに自分を殺し続けていることなのだろう、とひしひしと感じる。だってのにこのうつというものは、やる気そのものが失せるのだ。「ひたすら弱い身体の、ボスはわたしだ」という言葉を借りるなら、「ひたすら強い身体だが、すべての判断ができない下っぱだ」。これがまともな状態なわけがない。だが、休んでるし、入院している。おれよ、よかったな。入院できて。

前もそうだが、おカネのことが特に気になる。最高1万円分のミス、示談にしてもらえるに決まっている。みんな、どうでもいいよと思いながら、前年度収支決済を見ているではないか。言われたら返す。未来のことを考える必要はない。今、未来のことを考える必要があるとすれば、これから先、1ヶ月分必要なメシが全部目の前にある、と思えばいい。そんなこと考えても考えなくてもいっしょ。ムダだ。

西さんの本で「なぎさ」を書いた人が亡くなっていることがわかった。それと知らずに読み、心を打たれ、それを知り、なんとなくショックだった。何にしろ、作品がそこにあるのは変わらないのに、どこか遠くへ行って、さわれなくなった気がする。もともと、さわろうともしてなかったのに。なんとなく、惜しい。


頼もしい、一歩。


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